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森林浴の医学効果
日本で構築されたエビデンス



森林浴、そして森林セラピー(医学効果のある森林浴)は、まさしく日本で誕生しました。
2004年から2017年まで、森林総合研究所と千葉大学が全国63か所で行ってきた森林浴医学実験により、日本で数多くの英文論文が生まれ、世界に発表されました。
その結果、ニューヨーク・タイムズやBBCテレビが報道して欧米に広がり、アジアでは韓国・中国が日本にならって森林セラピーを展開するなど、森林浴の効果を活用した予防医学は、世界的な流れになっています。

森林浴効果

森林セラピーの医学効果は、大きく4つあることが、科学的に検証されてきました。

1、脳の前頭葉の活動が沈静化し、脳活動がリラックス
森林浴実験において、脳の前頭葉に近赤外線を当てて、ヘモグロビン濃度を分析しました。
その結果、脳前頭前野のヘモグロビン濃度が、都市での活動に比べ減少し、脳活動がリラックスしました。

2、自律神経活動の副交感神経活動を昂進して、生体をリラックスさせ、交感神経活動を抑制して、ストレスを軽減
全国63カ所の森林セラピー実験では、心拍を測定しています。
この心拍の変動を分析することで、自律神経活動の副交感神経と交感神経の活動が分かります。
森林浴をすると、リラックス時に優位に働く副交感神経活動が、都市に比べて高まりました。



一方、ストレス時に活発になる交感神経活動は、森林浴が都市環境に比べ沈静化しました。
ストレスが軽減されているのですね。

3、ストレスホルモンであるコルチゾール濃度やアドレナリン濃度を低下させ、生体のストレスが減少
全国の森林セラピー実験によって、ストレス時に副腎から分泌されるコルチゾール濃度が、都市よりも低下することが分かりました。
同様にアドレナリン濃度も、大きく低減することが分かっています。
長野県信濃町の森林浴トレイルで看護師さんたちを被験者とした実験では、職場の病院では高かったアドレナリン濃度が、1日の森林浴で半減し、2日間で3分の一まで大きく下がりました(李ほか,2008)。
アドレナリン濃度が高いままだと、疲れやすいですし、病気の原因にもなります。
森林浴が、大変効果的にストレスホルモンを低減してくれるのです。

4、免疫能のうち、ナチュラルキラー細胞の活性を高め、抗がん機能を増強
長野県上松町での森林浴実験では、都会のお疲れサラリーマンが2泊3日の森林セラピーで、抗がん能を高めるNK(ナチュラルキラー細胞)活性を増加させてくれました。


一方、コントロール(比較実験)とした名古屋市での都市散策実験の結果、免疫能は変化しませんでした。
つまり、森林で歩行・散策することによってこそ、免疫能は増強され、緑のない都市環境では効果がないのです。

森には、どうしてセラピー効果があるのか

さて、なぜ森林には、それほどに健康に有効な要素が集まっているのでしょう。

“森林浴”では嗅覚・視覚・聴覚・触覚など五感が刺激を受け、総合的に恒常性に働きかけ、生体がリラックスします。
そのうち、嗅覚刺激は、樹木、主にヒノキを代表とする針葉樹が発散する、α―ピネンなどのフィトンチッドの働きによるとされます。
この物質は、テルペン類と呼ばれる化学物質の仲間です。
実際に実験室で、フィトンチッドを刺激とした結果、免疫能が高まりました(李ほか,2006)。
加えて、新緑や木漏れ日の緑の視覚効果、せせらぎの水の流れやオオルリなどの野鳥の声など聴覚刺激、苔むしたふわふわした林床や落ち葉のトレイルなど触覚刺激、これらが相まって森林浴の医学効果が発揮されます。

さらに、生活習慣病予防、アンチエイジング効果も

■高血圧の方に効果あり
長野県上松町の赤沢自然休養林の実験では、高血圧の方を被験者としました。
その結果、正常高血圧の中年男性の血圧が森林浴で減少しました(落合ほか,2015)。
健常者だけでなく、高血圧の人にも森林セラピー効果があるのです。

■森林浴のアンチエイジング機能
森林セラピーを体験している方の8割が、女性だそうです。
それだけ女性にとって、ありがたい効果があるのでしょう。
規模の大きい森林公園での実験では、森林浴がDHEA-S(デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)というアンチエイジングホルモンを増加させたという結果が出ました(李ほか,2011)。
森林浴を行うことで、若さを保つ効果が期待できるのです。



香川隆英(かがわたかひで)

京都大学農学部修了後、農林水産省入省。
2004―2016年まで、森林総合研究所 環境計画研究室長を務め、現在、森林管理研究領域 研究専門員。農学博士。
森林医学・セラピー研究を推進するため、日本全国63箇所の森林セラピーロード認定実験に加え、国内外の森林浴実験に携わってきた。
森林医学・森林浴の発展のため、研究・政策・事業活動を支援している。
長野県森林セラピー推進協議会会長、INFOM(国際森林医学会)日本支部副会長、NAFOW(韓国森林福祉国際協会)理事、おくたま地域振興財団評議員など。
『森林セラピー』(朝日新聞出版)、『森林医学』『森林医学Ⅱ』『自然セラピーの科学』『環境保全と農林業』(朝倉書店)、『フォレストスケープ』(全国林業改良普及協会)以上共著。

NHK「チコちゃんに叱られる!」にも出演。

「チコちゃんに叱られる! 」単行本 2019/3/19発売